【空に咲くひとひらの花】:連載第5回 発達障害を知った日

 
これまでのお話:【空に咲くひとひらの花】
 
 
このイベント業務をきっかけに徐々に仕事の内容のレベルが上がっていきました。
遊具のレンタルを中心とした部署は解散となり、自社製品の宣伝・プロモーション部隊を新たに立ち上げたのです。

「より多くのお客様に喜びと感動を」

青臭い理想を頑なに守りたいと思っていました。
 
 
元々広告の世界を志望していたので、この業務は本当に天職と思えました。
資料作り、予想される収益計画、社内調整、代理店へのブリーフィング、コンペの手配。実施。各媒体での効果測定etc,,etc。
やりがいはありましたが多忙を極める毎日です。

workingseen01

 
集中力、処理能力が劣っているため、どんなことにも人一倍時間がかかります。
企画職なので、社内からはあまり効率についてとやかく言われることはありませんでしたが、日に日に己に対するジレンマというか苛立たしさがつのりました。
 
 
 
そんな折、偶然「速聴」の存在を知りました。

もしかしたらご存知かもしれませんが、「ナポレオン・ヒル・プログラム」~思考は現実化する~
田中 孝顕/訳 株式会社SSI より発売されたオーディオブックです。

脳の処理スピードの問題で悩んでいた矢先だったので、この「速聴」というフレーズには心惹かれるものがありました。

しかもただ聴くだけでよいという手軽さ!!(^^)

値段も手頃だったので早速購入し、それこそ毎日朝晩と聞き続けました。

hearingimg

 
簡単にその効用をご説明しますと、通常人間の耳では聞き取れないスピードで音声を流すことにより、潜在意識へ働きかけるのと同時に脳のウェルニッケ野に刺激を与え、活性化を促し脳の回転数を加速する、というものです。

速聴プログラムを開発した田中 孝顕氏の苦労話とともに、具体的な成功事例がそれぞれ購入者の手記によって語られていました。

「聴くだけ」という自己啓発プログラムは当時物珍しく、また実際に書籍を読んでもそれなりの効果があるように思えました。

またもう一つのテーマである「成功哲学」に関しても魅力的に映りました。

考えていることイコール思考そのものが、その人の人生を創るのだと。よって成功哲学とはまず潜在意識に働きかけることが重要であり、そのアプローチの一つが速聴であるという理屈です。
 
 
このプログラムの成否に関しては何とも言えません。

といいますのが、オーディオブックはあくまでも入口であり、本格的にプログラムを受けるためには別に何十万も払う必要があることを知って断念したからです。

入門編であるオーディオブックのCDは半年ほど聞き続けたでしょうか。

最初はプラシーボ効果もあり、脳の活性化が実感できたのですが徐々に新鮮味が薄れてきて、終いにはイントロが流れた時点で眠くなるといった始末でした(^_^;)

少なくとも仕事上でその効果を実感できたことはありませんでした。
 
 
ただ「思考は現実化する」ということと、やり方次第では人間の潜在能力はまだまだ開発できるのだということは深く心に残りました。
 
 
そのあとも使い勝手の悪い「自分の外側機能」にうんざりしながらも、日々仕事に悪戦苦闘しヒントを探す毎日でした。
さすがに怪しいセミナーに足を運んだりはしませんでしたが、ビジネス書や自己啓発関連の書籍は人一倍読んでいたような気がします。
 
 
 
そんな折前にお話ししました「大人のAD/HD」について書かれた書籍に出会ったのです。
ネット情報だったのか、人から聞いたのか忘れましたが、これは衝撃でした。

・AD/HD(多動性注意欠陥)が個人の性格に由来するものでなく障害であること。

・その具体的症例が自分の幼児期を含めた現在に多くあてはまること。
 小学生の長男に色濃く反映されていること。

・AD/HDは小児特有のものと思われてきたが、その障害は成人になっても続くこと。

・ただし日本では成人におけるAD/HDを診断できる医療機関が非常に少ないこと。

恐らくまともに大人のAD/HDについて取り上げたのは、この本が初めてではなかったのかと思います。
 
 
しかも更に救いになったのは、巻末に大人のAD/HDに関して診断してくれる医療機関名が記載されていたこと、AD/HDへの具体的な治療方法(メチルフェニデート系の投薬)が書かれていたことです。
今では様々なサポート機関や医療機関がありますが、当時は本当にまれで専門外来はなく、大人のAD/HDに関しては「診られないこともない」といった程度でしかない所が多かったのです。
(予約しても一年待ちという所もあったのです)

長男に関しては当時お世話になっていた地域の「言葉と聞こえの教室」のカウンセラーの先生の勧めもあり、心療内科での診断、治療ではなくその方面に多大な知見があるとの評判だった明星大学の教授をご紹介して頂くことになりました。月に一回か二回療育を通じて様子を見ることになったのです。
 
 
結論から言うと、この試みは長男にも私にも劇的な改善をもたらすことはありませんでした。
 
長男は定期的に明星大学に通い、教授の教え子の学生さん達に勉強を教わったり教授指導のプログラムを受けたりしていましたが、軽度のAD/HDまたはアスペルガーの傾向はみられるものの、断定はできない。学習障害に関しては一定の理解力はみられ時間をかければ学校の勉強にもついていけるだろう、との見解でした。

その後中学に上がるタイミングで心療内科の受診を受け、心理療法士のカウンセリングも受けたものの、診断結果は「ごく軽度のアスペルガー症候群の傾向が見受けられる」といった曖昧なものでした。

それでも治療方針が立てられ、投薬が行われたのですが、あまり効果がないまま様々な問題、事件を起し、通院もままならない状態になりそれっきりとなってしまいました。
 
 
私の場合は予約を入れ半年ほど待った上で、受診しました。事前にHPに書かれていた(初診での注意)に従い、家族の状況、母親の妊娠期の状態、乳児、幼児期の環境、状況、小学校から現在に至るまで対人関係や学習状況、その時の心理状況を覚えている範囲でまとめ、今自分自身が感じている「生きにくさ」であったり「困っていること」を書いたもの携えてその病院を訪れました。

Woman doctor that examination

まとめた書面を一瞥したその医師は
 
「成人のAD/HDは見ただけで明らかに分かる」
「子供の時はもしかしたらそうだったかも知れないけど、今現在そのくらい落ち着いているならAD/HDとは言えない」
「でもそんなに困っている(と主張するなら)なら一度リタリンを試してみる?」
 
当時リタリンの乱用が問題視され始めた時期だったので、リタリン欲しさに確定診断を受けたがる人が大勢いたのは事実のようです。

ただ私の場合は本当に藁をもすがる思い、少しでも生きやすくなればとの思いから半年待って病院の門を叩いただけに、この医師の乱暴な物言いは心外でしたし少なからず失望しました。

1か月ほど薬を飲み続けたのですが、一番最初に感じた

「酒に酔ったような脳の膨張感」
「変な覚醒感」

しかなく、特段効果的な手ごたえはありませんでした。

過度の期待もありましたし、その分医師の粗雑な扱いにがっかりもしました。

結局長男同様その後、病院に通うのはやめてしまいました。
 
 
つづき:連載第6回 ヴェールの向こうに
 

wriiten by  鳴海集一 Shuichi Narumi