【空に咲くひとひらの花】:連載第15回 子供が受け継いでしまったもの⑤ 事件

これまでのお話:【空に咲くひとひらの花】
 
ご自身が発達障害と向き合う若い頃の過程から、結婚後授かったお子さんの発達障害のご様子を、連載という形で記事にして下さっています。
ノンフィクションです。

 
 
その日は、ささやかに家内の誕生日を自宅で祝っていました。

家では様々な厄介事が持ち上がり、家内は心身ともに疲れていました。
そんな中で誕生日のお祝い事。本当に久しぶりに迎えた穏やかな時間です。
 
Birthday.
 
・・・電話が鳴りました。時間は10時過ぎです。

あまりこの時間に電話がかかってくることはありません。嫌な予感は的中しました。
 
 
「こちら○○警察署少年係です。そちらは鳴海さんでしょうか。T君(息子)の保護者の方ですか?」

ドラマや小説などではよくあるセリフです。

ですが、現実に耳にするとものすごく違和感があります。胃になにか重いものを飲み込んだような感じがしたのを今でも覚えています。

「はい。父ですが…」

「T君をこちらでお預かりしているので、引き取りにきて頂けますか?」

お預かり?

「…なにかご迷惑になることを?」

「いえ、補導とまではいかないのですが、職務質問したところ持ち物にタバコがあったのでそちらの連絡先を聞こうとしたら頑として口をきかなくて…。署の方に来てもらいました。それでどのくらいで来られます?」

「…30分くらいでお伺いできると思います。ご迷惑をおかけして申し訳ございません」

「それではお待ちしています」
 
 
息子は○○君の所に泊りがけで遊びにいっているはずでした。

何も母親の誕生日にわざわざ家を空けなくても、と思ったのですが、聞いている範囲でのここ暫くの家内と息子の諍いを考えると、少しでも離れた方が良いかも、とも思いました。

「Tが警察に厄介になっている。迎えにいってくる」

家内に視線を移すと、能面のような表情で手が小刻みに震えています。
心配でしたが、娘に後を託し家を出ました。
 
 
酒がはいっていたので、自転車です。警察署までは自転車で15分くらいの距離です。

警察署に着き、教えられた通り1階の内線電話で少年係に連絡をすると若い刑事さんが上から降りてこられました。

一通りの謝罪の挨拶を済ませると、2階の部屋に案内されました。息子に対面する前に事情を説明してくださるとのこと。
 
 
要約すると

・夕方何人かの中学生が歩いていたので、職務質問しようとしたら一斉に逃げ去り息子だけが捕まった。
・一緒にいた友達、自宅の連絡先を聞いても言わない。持ち物を調べたら、タバコがでてきた。
・半ばむりやり警察署に連れてきた。
・何度聞いても「父さんに知られたら、殺される」の1点ばりで、自宅の連絡先を言わない。
・時間をかけ説得し、やっと自宅の連絡先を教えた。早く解放したかったが、そういう事情で夜半になった。
 
 
「一緒にいたのはあまり柄の良い連中には見えなかった。中学2年生はとても大事な時期なのでご家族で今後注意して見守ってほしい」

等の話を若い刑事さんは付け加えられました。

息子にいる部屋に通されました。息子は泣き疲れたのか、机に突っ伏している状態です。

「お父さん、迎えにこられたぞ」

年配の刑事さんが、肩をたたきます。

見上げた息子の顔は、とても幼く見えました。
 
 
息子を連れ警察署を出ます。

私は何も言わず、自転車を押しながら前を歩きます。
少し遅れて息子が後をついて来ます。

正直、怒りがありました。
 
 
私も小学校、中学校と散々両親に心配と迷惑をかけてきました。
ただその中でも守ったのは「警察の厄介にはならない」という事です。

これは私の母から物心つくかつかないか位から言われてきました。

といいますのが、私の父が役人で肉親に犯罪者が出た途端懲戒対象となるため、それこそことあるたび言われてきました。
ほとんど潜在意識に刷り込まれるレベルだったので、「手が後ろにまわること」だけはしないようにしよう、と子供心に誓った記憶があります。
 
 
そんな風に育ったので、当たり前ですが息子にも同様のことは伝えてきたつもりです。

にも関わらず…。

同時に身も世もなく打ちひしがれて、とぼとぼ後ろをついていくる息子の姿を見ると哀れさというか切ない気持ちがこみ上げてきます。
 
ssimg01
 
結局、マンションの駐車場についた時点で顔を一発張り、「二度とするな」と言うに止めました。

その時の息子の姿を見る限り、心の底から反省しているように見えましたし、これに懲りて少なくとも警察の厄介になることは二度とないだろうと思いました。
 
 
その淡い期待は半年も経たない内に打ち砕かれることになりました。

次の夜中の電話は、よりによって私の誕生日でした。

今度はコンビニでの窃盗とのことです。
 
 
これを皮切りに中学を卒業するまで、ほぼ一か月に1回はなんらかの事件を息子は起こしました。
(余談ですが、誕生日のお祝い=警察からの電話がトラウマになり、うちでは約2年間ほどあらゆる祝い事を取りやめました(^_^;))
 
 
事件の主なものとして、こんなことがありました。

・原付の無免許運転
・原付の窃盗(パーツ含め)
・住居不法侵入(原付の窃盗に関連して)
・コンビニでの窃盗
・学校外での集団暴行事件の被害者(加害者)
 
 
最後の集団暴行事件は、学校全体を巻き込む騒ぎとなり、警察での取り調べとは別に関係した子供達のご両親がうちに集まりお話合い、という事態となりました。

家内は度重なる心労により、ノイローゼ状態となっていました。

私が知っているだけで3度ほど意識を失う程のヒステリー状態となり、中でも強烈に記憶に残っているのが、台所の床で胎児にようにギュッと手と足を縮め、

「私が悪い、私が悪い、私が悪い、私が悪い、私が悪い」

と繰り返す家内の姿です。

本当に切羽詰まった状況でした。
 
 
家内はこのような状態でしたので、警察からの引き取り、窃盗先へのお詫びは私の役目でした。警察の少年係には何かあったら直接、私の携帯に連絡をくれるようお願いしてました。

何故、こうなってしまったのか。息子とも何度も話しました。

話をするたびに「もう二度としない」と言います。
母親の状況も彼なりに理解しているようです。

でも事件は繰り返されました。
 
 
学校からは完全に見放されていましたし、どこかに相談することも思いつきませんでした。
と言いますか、とにかく日々起きることの対応に精一杯で全く余裕がなかったのが本当のところだと思います。

色んなことが頭に浮かびました。とにかく息子に言っていることが少しも信用できないのです。

反省に至る話の中には様々な嘘が隠れており、相変わらず家内との怒鳴り合いの中では究極の自己弁護(俺より悪いことしているヤツは一杯いる。俺はマシな方)が繰り返され、懲りた様子が見えるのはその場だけという状況が続きました。

その中でも、家内は息子に対して、普段(日常の挨拶、ごはん時の会話など)は極力普通のコミュニケーションをとろうとしていたようです。

私の目から見ると、息子はその家内の努力に甘えていたような気がします。反省の様子が見えるのはせいぜい1週間。1週間たつともう事件のことは忘れているように見えるのです。

自分の過去の経験を照らし合わせても、理解できません。本当に健忘症ではないかと思うくらい、懲りずに似たようなことを繰り返すのです。
 
 
結局ここまで事件が多発すると、警察としても看過できず、息子が15歳に達していたことも踏まえ、事件扱いとなり家庭裁判所に送致となりました。

自宅に一通の葉書が届きます。いわゆる「呼び出し状」です。
 
 

こうした知識は役に立つ機会がないのが一番ですが、もしものために少年事件の流れをご説明します。

20才未満の少年に適用される少年法は基本的に更生、保護がその全てです。14歳未満は事件扱いにすらならないのが実態です。この少年法に関して
は少年の凶悪事件が起きる度に改正の話が起き、実際に対象年齢の引き下げが検討されているようですが、なかなか難しいようです。

禁固刑以下の軽犯罪(息子の場合は原付の窃盗)は警察から直接、家庭裁判所へ事件の情報が送られます。
(禁固刑以上となるとこの間に検察が入ります)

事件の資料を受け取った担当の調査官は調査に入ります。その一環として家庭裁判所での保護者を交えた面談があるのです。

その調査結果によって「審判」が行われ、保護処分(保護観察、少年院送致、児童自立支援施設送致)が決定します。もちろん事件の内容によっては、不処分(教育的措置)という説諭に近い措置もあります。

今回自宅に届いた「呼び出し状」は調査面談のためのものです。

 
 
指定された日に会社は有給を取り、家内と息子の三人で家庭裁判所に出向きました。

調査官からは息子の起こした事件のあらましが伝えられ、息子に相違ないか確認をとります。
事件を起した時の本人の気持ちや今後はどうありたいかが、淡々と聞かれました。

一通りにやりとりが終わった後、調査官から
「今回の事件の性質から考えて、拘留からそのまま少年院送致というのもあり得た。今こうして家からこれたのは一重にご両親がこうして揃っているから。そのことにまず感謝して下さい」

との話がありました。

息子を見ると、うつむいて涙ぐんでいます。

その時です。経験したことのない揺れが裁判所全体を襲いました。

忘れもしない、2011年3月11日。東日本大震災が起きたその日です。
 
つづく
 
 

wriiten by  鳴海集一 Shuichi Narumi

 



いつも読んで下さりありがとうございます!1日1クリックの応援お願いします♡

にほんブログ村 メンタルヘルスブログ 発達障害へ

カウンセリングのご案内
ご感想