【空に咲くひとひらの花】:連載第6回 ヴェールの向こうに

 
これまでのお話:【空に咲くひとひらの花】
 
 
姉がなくなってからしばらくの間、同じ夢を何度か見ました。

劇場にいるのです。

舞台上では、色々な役者達が入れ代わり立ち代わり様々なお芝居を繰り広げています。

内容はよくわかりません。

ただすごく面白いのです。

ちょっとした動作が意志を持って頭に語りかけてきます。

徐々に劇場全体が熱を帯び、観客も合間合間に拍手をし、歓声をあげます。

面白くて、興奮して気が付いたら私も割れんばかりの拍手をしています。

そのうち、舞台から役者が一人消え、二人去りしていきます。

舞台にはまだ熱と余韻が残っているのに、突然幕がおります。

気が付くと観客席には私一人しかいません。

「ちょっと、待ってくれよ!!」立ち上がって叫びます。すると照明全てが消えるのです。
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必ず、この夢を見ると真夜中に目が覚めました。起き上がってしばらくしても闇に目が慣れなかったのを覚えています。
 
 
夢の話をもうひとつ。

小学校6年生の時に、修学旅行で長崎に行きました。一泊二日だったか、二泊三日だったかはっきりと覚えていませんが、初日の夜のことです。

宿泊先のホテル(旅館ではありませんでした)は湖のほとりにたっており、なんというかちょっと不気味感じがする佇まいです。

湖も沼と表現した方が近いかも知れません。

いずれにしても、あまり修学旅行先としては適当な宿泊場所ではなかったような気がします。

しかし、そこはやはり子供の集まりです。ホテルの雰囲気なんかお構いなしに、食事→お風呂→部屋でのバカ話→まくら投げ 盛り上がるだけ盛り上がって皆死んだように眠りこけてしまいました。
 
 
その中私は夢を見ています。(はっきりと夢だという自覚がありました)

目の前にホテルの湖が見えます。

岸辺になぜか姉が立っているのです。白っぽいワンピースのような服をきています。

私には姉の姿がはっきりと見えるのですが、姉は私に気づいていないようです。

姉はふと思い立ったように岸辺から湖に進みます。

どんどん歩いていきます。

夢だとは分かっていたのですが、ただならぬ雰囲気にこれはまずい、と感じ声を限りに叫ぶのですが、一向に声が出ないのです。

足が見えなくなり、腰が見えなくなり、肩が見えなくなりました。

最後にこちらを振り返ったような気がしますが、その辺の記憶は曖昧です。

ただ、ただ、 頭が見えなくなったとき

「とぷん」

と音がして波紋が湖一杯に広がったのは鮮明に覚えています。
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姉に関する夢はそれまで見たことがありません。これが初めてだったと思います。

起きた瞬間、夢だとわかっていたはずなのに、なぜか「お姉さんは死んでしまった…」と思い込みました。

悲しいというより、どうやってこの事実を両親に伝えたら良いのか途方に暮れました。

夜遅いし、両親も寝ているだろうから明日でいいか…。

考えた末に能天気な答えをだし、また寝てしまいました。

翌日からの修学旅行の行事を過ごす内に、このことはすっかり忘れてしまったのですが、家へ帰り姉の無事な姿を見た時に心の底からホッとしたのをおぼえています。
 
 
今回、姉のことを含め様々な昔話を語る機会を頂き、こうして書き綴っていると色々な事が思い出されます。

姉の遺書は見ていないと前に申し上げたと思いますが、亡くなった時の状況はしばらくしてから両親に聞きました。

新婚旅行から帰ってきて1週間ほどして、突然新居から行方不明になったそうです。

旦那さんもうちの両親も八方手を尽くして探したそうですが、杳として知れず。捜索願を出したタイミングで見つかりました。

実家から数キロも離れていない雑木林の中です。
 
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自分の車に排気ガスを引き込んでの自死だったそうです。
 
 
この話をしてくれた時、お袋は「どこでそんな知識をつけたのだか…」と溜息をついていましたが、姉はミステリーやSFが好きで、この手の知識は豊富だったと思います。

それにしても数キロも離れていない場所で…。見つけて欲しかったのか、帰りたかったのか。

正直わたしにはよく分かりません。

ただ、車内に最後に飲んだであろうミルクティーの缶が残されていたという話を聞いた時、胸が張り裂けそうな思いがしました。

人一倍臆病だった姉。誰もいない雑木林でたった一人で紅茶を飲んでいるとき、怖くはなかったのでしょうか。

死に顔はきれいだったそうです。

後で知りましたが、一酸化炭素中毒でなくなった遺体は毛細血管が破裂する関係で紅潮するそうです。

「お姉さんきれいだよ。最後に顔を見てあげなさい」

と散々言われましたが、どうしても見ることが出来なかったのは前に申し上げた通りです。
 
 
今現在生きているのは我々です。どうあってもこの先、生きていかなくてはなりません。

ただ生き方は、よくよく考えないと向こうに行ったとき、姉と良い話ができないような気がします。

そう思ってはいるものの、なかなか結果というか日常生活に活きてこない自分にジレンマを感じます。

心療内科での投薬は効果がないままでしたが、生活の上での課題、もっと言えば仕事の処理のスピードの問題は厳然と残っています。

・複数のことが同時にできない。

・説明していると、何を言いたいのかよく分からなくなる時がある。

・人の話を聞いていても、何が言いたいのかよく分からなくなる時がある。

・集中するのに時間がかかる。一つのことに集中しきれない、考えている最中常時頭の中でノイズが鳴っている。
(みたTVのセリフだったり、好きな曲のワンフレーズだったり、CMソングだったり、全く記憶にない人の話だったり、脈略も傾向も特にないような気がしました)

・タイピングが遅い。

・頭の回転が良い日と悪い日の差が極端。

・「衝動」が脈絡もなく頭を支配することがあり、落ち着きを失う。

これらを克服すべく、再び本格的に取り組む決心をしました。
 
 
つづき:連載第7回 外の自分と中の自分
 

wriiten by  鳴海集一 Shuichi Narumi